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癌の発生・悪性化とTGF-β
<背景>
TGF-βは上皮系細胞に対する強力な増殖抑制作用を示すことから、癌抑制因子として注目されてきた。実際、遺伝性非ポリポージス性大腸癌や膵臓癌をはじめとした多くの癌で、TGF-βの受容体やシグナル分子の遺伝子変異が見出され、TGF-βシグナルからの逸脱が癌化の要因の一つと考えられている。さらに、癌細胞自身が産生するTGF-βが癌胞巣周囲の正常細胞に作用し、細胞外マトリクスの蓄積、血管新生、免疫抑制やEMT(上皮-間葉移行)などを引き起こすことも明らかとなりつつあり、癌の悪性化、特に癌細胞の浸潤・転移を促進する因子としても考えられるようになってきている。したがって、TGF-βの発癌・癌浸潤・癌転移における作用機構を解明することによって、新たな分子標的療法の開発や診断・予後の判定のための基礎的知見を得られると考えている。
<現在の取り組み>
TGF-βの作用はきわめて多様で細胞の分化・増殖さらに細胞機能の調節に深く関与しているため、その細胞内情報伝達機構を詳細に理解することは非常に重要である。TGF-βの情報伝達機構は近年、急速に解明が進んでいるが、未だその強力な増殖抑制作用の分子機構は十分に理解されていない。また、Smadファミリーの分子群による情報伝達には多くの制御因子が関与していることも明らかにされつつあり、これらの因子の作用の研究はTGF-βによる多様な生理作用の発現機構を理解するうえで鍵となると考えている。一方、癌細胞の中には情報伝達機構の異常により、TGF-βによって増殖促進する例、運動性や浸潤能を亢進する例もあり、これが悪性度を高める一因として考えられる例も出てきている。そこで、これらの分子メカニズムを理解するために、in vitroの実験系やマウスを用いて研究を進めている。
文献
(1) TGF-βによるEMT(Epithelial-mesenchymal Trasndifferentiation)の分子制御機構の解明
- Kondo M, Fukuda N, Tobiume K, Cubillo E, Cano A, Takehara K, Saitoh M, Miyazono K. (2004). A role for Id in the regulation of TGF-β-induced epithelial-mesenchymal transdifferentiation. Cell Death Differ. 11, 1092-1101.
(2) TGF-βスーパファミリー因子によるApoptosis制御の分子メカニズム
- Fukuda N, Saitoh M, Kobayashi N, Miyazono K. (2006). Execution of BMP-4-induced apoptosis by p53-dependent ER dysfunction in myeloma and B-cell hybridoma cells. Oncogene. 25, 3509-3517.
(3) 前立腺癌細胞におけるTGF-βスーパーファミリー因子の作用機序の解明
- Miyazaki H, Watabe T, Kitamura T, Miyazono K. (2004). BMP signals inhibit proliferation and in vivo tumor growth of androgen-insensitive prostate carcinoma cells. Oncogene. 23, 9326-9335.
(4) TGF-βによる増殖促進作用の分子機構
- Matsuyama S, Kondo M, Saitoh M, Shimizu K, Aburatani H, Mishima K, Imamura T, Miyazono K, Miyazawa K. (2003). SB-431542 and Gleevec inhibit TGF-β induced growth stimulation of human osteosarcoma cells. Cancer Res. 63, 7791-7798.
<Review>
- Miyazono K, Suzuki H, Imamura T. (2003). Regulation of TGF-β signaling and its roles in progression of tumors. Cancer Sci. 94, 230-234.